181丁目地下鉄駅のエレベーターマン。(最終回。how to do rather than what to do.)

実はブルースは読み書きが出来なかった、ということがはっきり分かる筆記だった。

それでも、誰かに教わりながら一生懸命書いただろうということが分かるものだった。

相変わらず、真っすぐには張られていなかった。

冬を超して春の桜が咲く頃まで、わら半紙が風化するまで、セロテープで何度も補強されながら、そこに残っていた。

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もっとも目立たない職業、もっとも些細な無機質な空間を、もっとも輝くものにしてしまったのです。

呼吸もしたくない窮屈な48秒を、多くの人にとって最も暖かい時間にしてしまったブルース。

どんな仕事をするか、なにをするかではなく、どうするか、どんな気持ちで行なうか。

いつだってwhat to do (何をするか)ではなく、how to do(どう行なうか)が大切だということを具体的なことで示してくれました。

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無人になってから2年後には、このエレベーターの中で小さな火事があり数人が怪我をしてしまいました。

その1年後には、28人もの人が2時間に渡って閉じ込められる事故がありました。これは、ニューヨークタイムスにも出たし、今でもyou tube  で見る事ができるのも、なにか空しいけれど。

その結果、しばらく使用禁止になって、昨年春にようやくピッカピッカなステンレスの箱になって再開。

住民の意志を取り入れたということで、当局が近くの芸術大学の生徒の作品4点を立派な額縁に入れて飾ってサブウエイギャラリーと名付けました。

でも、これらのポスターにも壁にも、いつも落書きがいっぱいで、以前よりも埃と匂いがいっぱいの不気味な空間になってしまっています。

 

実は僕がブルースと会った時のは、もう写真も音楽も出来なくなってからの最後の1年でした。

だから、僕は彼の音楽も聞いていないし、写真も見ていません。

こんな話があったということも、実は後で聞いたのでした。

それでも、 今でも僕はこのエレベーターに乗る度に、暖かい涙を感じるのです。

有り難う、ブルース。そして、どこにいるか分からないけれど、新年おめでとう。

*とりあえず終わり

[これは、実際にあった事をベースにしたドキュストリー第1号です。これからも一ヶ月に1つは、トライしてみます。]

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