英国王のスピーチ。”The King’s Speech”

なんとか時間を見つけて、「英国王のスピーチ」を観た。

映画が大好きなのになかなか足を向けなくなっている。NYに居る時には、二週間に一回は映画に行っていたのに。

一つには、普通の生活の中で、映画が話題にならないということもあるかもしれない。NYでは大人の話題で、映画やアートはとても大切な要素だ。あとの理由は、ガッカリする映画が多いからだ。ハリウッドの映画は、どうも僕には肌が合わないのか、大体話題の映画はほとんどガッカリだ。

映画をエンターテイメントとして、観ている時だけ、楽しかったり、興奮したら満足というように僕が考えていないからかもしれない。大げさに言うと、映画で人生が変わったという経験があるからだろうか、僕は、見た映画が何年も心に残るものが好きだ。あとでなにやら考えさせられるような映画が好きだ。涙を流しやすく、感動しやすい体質なので、観ている時には泣いたり、笑ったり、感動したりするのだけれど、どうもそれだけだと、騙されたって感じになってしまう。

さて、今回の「King’s Speech」は、アカデミー賞をもらった作品ということで、却ってあんまり期待していなかった。でも期待はずれに、かなり良かった。

まず、映画が始まって10分くらいで、カメラマンの素晴らしさに感激。妙な小技を使わずに、でも確実に引き込んでいく力があるし、構図に美学を感じた。僕自身、コマーシャルフィルムをプロヂュースしただけでなく、自分でドキュメンタリーの監督やカメラも回したので、カメラワークにとても興味がある。

演技も、素晴らしい。コリン・ファースも、ジェフリー・ラッシュも、変な目立つ策を行わずにじっくりと、一見地味で実直な演技が好きだ。これは文学座の演出部だったことや、アクターズスタジオでのトレーニングのせいかもしれない。演技は格好つけない地味で、実直が素晴らしい。

内容も大人っぽい、しかも男っぱいところが好きだ。分かりすぎたり、説明しすぎたり、そういう内容はどうも好きになれない。こういう実際にあった内容を扱ったわりには、冷静な印象を受けた。それにしてもこういう内容を日本では映画にできないなあ。大正天皇とかの映画が作れないだろうなあ。

音楽にも驚いた。僕はベートーベンが好きじゃないと思っていたけれど、こんな風にベートーベンが使われると好きになってしまうかもしれない。

久しぶりに満足した感じの映画だった。

けれど、エンディングが残念だ。結局、吃りの王様とスピーチの先生との友情と、吃りとプレッシャーを克服した王様の話と家族愛みたいな暖かい感じで終わってしまった。でも、肝心なのは、この時に世界第二次対戦を始める大切な演説であり、これによって多くのイギリス人が反ナチスとして戦う勇気が盛り上がったこと。そして多くの犠牲のもとに新しい世界が出来上がったいくと言う事だと思う。ジョージ6世の彼自身のコンプレックスを克服したということではなく、きっとそれ以上の大きなものに対しての挑戦だったということではないのだろうか。そういう示唆のあるエンディングで有って欲しかったなあ。

数日してから、なんか後味が悪かった。小さな愛とか自己の問題になって結論が終えてしまったおうに思えた事が。最近の映画は、大作になるとなるほど、こういう小さな終わり方で集結してしまう傾向があるのは何故?

最後のシーンが、第二次世界大戦の白黒のニュースクリップとか、あるは、すくなくても素晴らしい演技を見せていたコリン・ファースの複雑な決意と未来への不安の顔をアップにするとかにして欲しかったなあ。

「カサブランカ」の最後のシーンのハンフリー・ボガードでも、「卒業」の最後のシーンのダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスなんかは、ちょっと納得いかない複雑な表情で終わっているけれど、あれがずうっと印象に残っている。

僕の中で名画になりそうだったけど、エンディングが、ガッカリ。残念だった。勿体ないなあと、僕は思った。

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